何人からのご質問がありましたので、縦使いのコートを横使いに直す方法をご説明しておきます。
縦使いのコートを横使いにする方法(PA加工)
各ストライプをほどいて(1本ずつにして)レットアウトを戻します(レットイン:letin)
本来毛皮は割りばしを割ったくらいの細さ(3㎜幅)に、斜めにカットして、少しずつ(1~2.5cm)ずらすことによって長さを獲得しています。(その分幅は狭くなってしまいます)
この操作を逆にするわけです。
(PA-1)身頃の模式図
(PA-3)縦のストライプを横ハギ用に、幅出し(レットイン)してカーブを付けます。
通常縦使いのコートは上の幅が狭く、裾の部分が広くなっています。それを同一幅に直す必要があります。
(PA-4)レットを戻すことによって、幅が獲得できます。
レットアウトを戻して幅出しいたストライプの頭部残皮
どちらもトップの幅がオリジナルの幅でしたが、レットインすることで、
左は4cm→6cm。右は2cm→8cm位に幅出ししました。
大体の場合、最小限 元のコートの半身裾回り長さは着丈として獲得できることになります。
さらに着丈を必要とする場合は
ストライプ間にテープを入れます。(通常1cmですが、デザインとして2~3cm入れる場合もあります)
尚さらに着丈が必要でしたら、グラッツエン(ストライプの中心)にもテープを入れることができます。
またさらに着丈を伸ばした場合は、元のカラーを最上段に(ヨークのように)持ってくればいい。
(PA-5)ストライプ間にテープイン、グラッツエンにもテープイン
ストライプ間にのみテープを入れた身頃サンプル
グラッツエンにもテープを入れた袖のサンプル
この横使いは原皮の頭部の部分が落ちる(使わない)ことになり、軽くなります。
またテープ(革、人工スエード、ストレッチテープ)を使うことによって、柔らかく、軽くすることができます。
この加工のできない毛皮縫製者は、残念ながらレットアウトという作業をしたことのない技術者です。
今まで私はこの加工方法を550点やってきましたが、失敗はありません。
困った時でも、必ず解決策が出てきます。
それは毛皮が「また生かしてほしい」と私にヒントを訴えてくるような気がします。
50年近く毛皮の作業をして、こういう時が一番うれしいです。
そして自分の毛皮に対する理解がさらに深っまったような幸福感に包まれます。
毛皮は素材としての他とは比べにならないくらいの素晴らしい可変性を持っています。
たいした技術も使わずに(カットするだけとか)リメイクして、
または新しいものを売りつけたくて、リメイクできないと言うメイカーが多いように思います。
確かに問題が起きることことを避けたという気持ちもあると思いますが・・・。
このリメイク(PA加工)の利点
①毛の方向を変えることによりデザインを一新できる
②軽くできる
③ファスナーを使うことにより着丈を調整
が主な利点です。
オリジナルのコートが、逆毛、ラグラン袖でもまたっく問題はありません。
[注]PA加工
横使いの毛皮という意味に使っていますが、一般名はホライズン(水平線)
ミンクは最初に恋する毛皮という意味でイタリア語のプリマモーレ(初恋)からヒントを得ました。
出典は慶応大の哲学者の本から得ました。
サンプル
PAーSPL①
ストライプ間のテープを2cm幅に
PA-SPL②
3点(ハーフ、ショールとマフラー)から毛足方向を交互にしたロングコート
毛足方向を交互にして光沢を変えました
パタン
有効面積、必要面積の確認
リメイクが失敗しないために、面積の確認をします。
制作前に、元のコートのリメイクに有効な面積を算出します。
オリジナルコートの寸法と重量測定します。
コート採寸表
重量を測るのは、原皮の100平方センチ(1デシ)の重さを知るためです。
総装重量の80%がおおよその原皮の重さです。
(革テープや異素材が組み合わされている場合はこの限りではありません)
測った数値を下の表(LTS:不足面積算出表)に入力します。
LTS表
左側にオリジナルコートの数値、右側にあたらしいコートの数値を入力し、有効面積と必要面積を算出します。
左側下の、グレーの部分は使えない部分(ダメッジ)の面積、または%を入力してこの面積を差し引きできるようにしてあります。
右側下の、ブルーの部分は、新たに差し込むテープなどの数値を入れます。これによって増加する面積を算出します。
結果的にオレンジの部分に残皮の面積か不足面積がマイナスで表示されます。