毛皮製品の製作にあたり考慮する7事項
毛皮製作における7つの基本事項(hexagon)
1品質 高い~低い、キズがある~ない、希少価値
2面積 原皮の1枚大きい~小さい、製品が大きい~小さい
3重さ 素材が重い~軽い、製品が重い~軽い
4加工方法 手が混んでいる~シンプルな加工
5デザイン性 フォーマル~カジュアル、
コンサヴァテッヴ~アドヴァンス
6リフォーム性 可変性(flexibility)が高い~低い
7耐久性 素材の強度高い~低い、製品のメンテナンス
製品の位置付け用チャート
1品質
原皮オークションのトップクラスのものは色、毛質がそろっており均一な製品を作れる重要な基盤です。
その後のナメシは皮面の柔らかさ、伸びの良さなどに影響します。
最近は1枚仕立てでリバーシブルもあり、裏側の皮面の加工も重要になりました。この場合、皮面に傷がないことも必要な条件になります。
ミンクでは刈毛(シェアード)、抜き毛(プラクト)、染色(ダイイング)技術によって毛質の風合いを変化させ、オークションでの品質以外に気をつけなくてはならない部分があります。
2面積
1枚の原皮の有効な面積と、作る製品の必要面積を捉えておくと、いろいろな計算に役立ちます。
基本的に、 必要面積(PTS)÷1枚の有効面積(SKS) で必要枚数が出ます。
パタンから必要面積を求めます。
1980年代初めは まだ手書きと計算機で面積を集計しました。その後ワープロに搭載された表計算機能(スプレッドシート)を利用しました。
(株)シャープとは連携してパスル15というソフトを開発しました。1988年フランクフルトメッセで公開いたしました。
やがてマイクロソフトのエクセルに代わりすべてにおいて作業は楽になりました。
原皮の有効面積は製品にしてトラブルの出る部分を削除した、長形か台形で面積を求めます。
ミンクはオークションですでにサイズが決まっており、現在は000、00,0,1,2,3,4サイズと長さで表示されます。
ミンク原皮有効面積(SKS)は
当社では以下のように設定しています。
サイズ 000 00 0 1 2 3 4
オス 1200、1100、1000、900、800、700、600
メス 700、600
3重さ
出来あがった製品が重すぎると着ていただけません。 100cm丈以上のコートで最大1.7kg以下に、出来れば1.4kg以下にしておくと何度も着ていただけます。
各素材を10*10cm(1デシ)単位で重量を測っておくと、PTSから原皮の重量を推察できます。
最上段は100平方センチ当たりの毛皮の重さ
SU=1は24000平方センチのコートです。
下段はそれぞれの素材を使った場合のコートの毛皮部分の重量を示してします。
4加工方法
デザインとも関係します。 レットアウト、スキンオンスキン、テープイン、異素材との組み合わせなどによって大幅に加工時間が変わります。 それぞれの加工技術で毛皮部分を仕上げる作業時間を把握しておけば、時間当たりの作業面積(WSH)が把握できます。
製品のPTSが分かればPTS÷WSHで作業時間が算出できます。
各作業セクション(デザイン、トワール、パタン、原皮、組み立て、裏立ち、裏付け)でWSHを調べ出しておくと見積もりがし易くなります。
特に原皮部分のコネクション(縫い合わせ)時間が一番変化の幅が大きいはずです。
5デザイン
ファーは布帛と違いシーズンは年1回、価格高ということもあり、デザインの冒険はし難い素材です。 各都市のコレクションで発表されたファッションラインは最初の3年が提案期、次の3年が受用期、そして次の3年が一般化期と9年くらいのスパンです。ファーは布帛に先行することなくファッションの後追いとならざるを得ません。中にはいち早くトレンドを読み取れる方もいらっしゃいますが、ほぼご自身のライフスタイルに合わせてデザインを選定するように思われます。ややフォーマルなものから、リフォームでカジュアル傾向にして行くようです。
1960年代はタイトなフィット・ファッションで、ツイッギーのミニ時代を経て、DCブランドが台頭し、1980年代ショルダーを強調した、ルースなビッグ・ファッション、その後2000年代再びタイトなスタイルへ、というのが大きな流れです。
6リフォーム
毛皮は可変性のある優れた素材です。ただ丈や幅を寸法上カットしたり、足したりするだけでなく、1枚のスキンに分解することができます。水張りすることで形を変えることもできます。現在のデザインをまったく無視してあらたなデザインに挑戦できます。それは革のように完全ナメシではなく、半ナメシという状態にあるためです。
次のリフォームを考えて縫製をしておくとよいと思います。皮張り時点でも強く張りすぎないようにしたり、強すぎる接着芯は避けたり、原皮に余裕を持たせておく必要があります。最初は素材の良さを重視して、デザインし、リフォームでカジュアル志向にされる方が多いようです。
7耐久性
毛皮本来の耐久性もありますが、製品になってからの管理状態も耐久性に大きく影響します。 シルクなどと同じく、光、熱、湿度に影響されやすい素材です。うっかりすると高温多湿の日本の夏場は「毛皮は思い出したくもない」という時期こそ保管には十分気をつけてください。
リフォームの体験から毎年夏場毛皮専用の保管庫を利用されている毛皮の状態はかなり良好です。リフォームでもいろいろな加工技術に耐えられます。
以上7つの要素を加味して毛皮は製作され、
製品の価値,価格が決定されます。
お客様の中に、ある有名なホテルで火災に会われた方がいらっしゃいました。避難されるときベッドの上に大切な毛皮のコートを置いてきてしまわれました。ところが火事が収まってびっくりしたことに、毛皮のコートそのままの形をしてベッドがその部分だけ焼け残っていたそうです。毛皮の特異性が伺われるエピソードですね。
北極圏に行かれた探険家が毛皮のライナー付のコートから、軽くて人工素材の中綿入りアノラックで行ったところ、汗がすべて凍ってしまい、重い甲冑を着ているようになってしまったそうです。以後はやはり毛皮のライナーにしたという記述を読みました。暖かさだけではなく外気との遮断性も優れている素材です。 |